「〈作家業30周年記念〉
彫刻家 大森暁生展 ー言葉、樹に沁むー 」
会場:文喫 六本木(https://roppongi.bunkitsu.jp/)
東京都港区六本木6丁目1-20 六本木電気ビル1F
東京メトロ日比谷線「六本木」駅より徒歩1分
都営バス「六本木駅前」すぐ
期間:2026年2月13日(金)~3月29日(日)
9:00~21:00、入場無料
先日の春めいた日の夕べ、何年ぶりかで六本木へ。
街はずいぶん変わっていました。昔、勤めていた駅近くの小出版社はとうに消滅、交差点の先の俳優座は、去年4月に閉館。地下鉄六本木駅地上で、かの高速道路をにらんで建っていた“青山ブックセンター”も無く、今そこにあるのは、『文喫』というブックカフェ。自然科学からアートまで、三万冊の本を販売しているが、入場料(平日2,750円、土日祝日3,630円、いずれも税込み)を払って入るため、無理に買わなくてもいい。コーヒーやスパゲティを飲食しつつ読書三昧でも、書籍を活用してパソコンに向かうも可。時間制限なしに一日中、“文化を喫する”ことが出来る。この滞在型の“書店喫茶”、開店してもう7年めですと。うーん、知らなかった!
店内ではこの期間、彫刻家大森暁生の“作家業30周年記念”の個展が開催中で、タイトルは『言葉、樹に沁む』。作品は木彫の動物が多く、質感ある野生動物等が、本に埋もれるように展示されている。“樹”の動物が、本の森に潜んで“言葉”を聞いているというイメージは、ワクワクする感じです。そしてこの日は、喫茶スペースで、トークイベントがあった。題して『上村汀×大森暁生“風狂のすゝめ”』。私が横浜くんだりから這い出てきた目的は、これです。
汀(みぎわ)さんは、“昭和の絵師”と言われた伝説の劇画作家上村一夫(1986年没、46歳)の長女で、上村オフィスの代表。実は例の出版社の編集者だった私は、まれに社に現れる憧れの『同棲時代』作者に、間近で接する幸運に恵まれました。亡くなってからも何かとご縁が重なり、今も汀さんとは親しんでいます。
(上村一夫公式サイトhttps://kamimurakazuo.com/)
平たく言えば現代に活躍する彫刻家と、昭和で一世を風靡した漫画家。その二人が、どうコラボするのか。そんな興味の中を、トークは進んだ。大森氏は、上村一夫の代表作『凍鶴』(いてづる)に魅せられ、自分の霊的世界に深い啓示を受けたという。ただ悔しかったのは、その絵師はあまりに早く昭和を駆け抜けて行ったことだと。’70年代から80年代の反抗の時代、サブカルだの風狂だのと騒がれながら、71年生まれの大森の世代には、まるで知られていなかった。だから自分は今、上村にオマージュを捧げることで、若い世代を啓蒙したいのだと。
ただ「上村一夫のどこに魅かれたんですか?」との汀さんの問いには、「湿気ですかね」と意外にあっさりしたお返事。シャイでもあろうが、大抵の作家は自分の世界を解説するのが苦手なもの。でもその“湿気”の言葉に、ふと思い出したことが。木彫にとって湿気は生命線。欠乏するとひび割れし、多すぎるとカビがはえて腐る。千年生き残る仏像は、湿気を制する彫り師の腕によると。
帰り、春とはいえ冷えびえした夜気の中を、連れの友人とソバ屋に入った。『文喫』とはおよそコンセプトの違う店で、蕎麦をつまみにビールで乾杯。久しぶりに蘇ったのは、私は上村一夫と同時代の高度成長の昭和を比較的懸命に生き、いつも貧しかったこと。そんな頃に心奪われたのは、やはりサブカルの漫画やジャズにこもった狂気に満ちた熱い湿気だったこと。それを思い出させてくれた大森暁生氏と汀さんにも、心の中で乾杯しました。
なんだか遠くを旅してきたような夕べでした。

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ミギー (水曜日, 04 3月 2026 01:56)
森先生、過日は六本木までお越しいただき誠にありがとうございました。若輩者の私たちにとってあの時代を知る先輩方のお話は宝石のように輝いて見えるのです。またお話聞かせてください。