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迷子になるということ

先日、久しぶりに迷子になりました。場所は上野恩賜公園。というと今は桜が見ごろで、ロマンチックな想像を抱かれそうですが(ちなみに今日二十八日は枝垂れ桜が満開、ソメイヨシノは三分咲き、満開は四月初めだそう)、そのころは桜もまだ蕾で、風も冷たかったです。

上野公園にある『東京文化会館』に行く用があり、東横沿線に住む私は、東横線中目黒でメトロ日比谷線に乗り換え、上野まで。七番出口を出てから会館まで七分歩きます。実は山の手線で行く方がずっと早いのですが、あの路線はひどく混むので、この日はゆっくり座って読書して行こうと、久しぶりに日比谷線を使ったのでした。

 

しかし地上に出た途端、アメ横の看板が目に入り、出口を間違えた!と思った。地下通路をうっかり進んで、七番出口をスルーしてしまったらしい。でも以前にも同じことがあり、人に道を尋ねながら事なきを得たのです。今も何とかなろう、と気軽に道行く人に尋ねたが、首を傾げる人が多くて勝手が違う・・・。そうだ、コンビニで訊こうと、角のコンビニでチョコの袋を手にレジへ進むと、そこにいたのはインド人。

流暢な日本語だったけど、案内の方はうやむや。やむなく交番を見つけて駆け込むと、案内用の地図のコピーをくれて終わり。それは大まかで分かりにくく、宵闇の中ではよく見えない。かくなる上はタクシーだ、と空車に手を上げること数回。でも止まってくれない。そばの人の話では、「この町じゃタクシーも迷うんで、止まりたくないんだよ」。

 

コントラバスの大袋を抱えた音楽家らしき人が、「会館はあの丘の上のどこかだ」と教えてくれ、石段を登って丘の上に。辺りはもう真っ暗で人影もまばら。六時半の開始時間はとうに過ぎていよう。もういいかと思った時、目の前の道を、スマホ片手に通り過ぎてゆく若者がいた。

この人だ!と直感的に思った。キーワードはスマホ。飛び出してこの人を掴まえ、事情を話すと、彼は首を傾げて呟いた。

「え、東京ブンカカイカン? そんなのこの辺にあったっけ」

それでも暗い中でスマホを覗き込み、ふと先に立って歩き出した。

「どうやら、その辺にあるみたいですよ」

「あ、教えて頂ければ結構です。これからお出かけなんでしょう」

いや、ただ散歩してるだけだから・・・と彼は先導してくれ、私はめでたく東京文化会館の前に立ったのでした。有難うございました!

 

 

▲東京文化会館
▲東京文化会館

その日文化会館で催された『鉄舟研究会』の会長へ、後日、遅刻のお詫びメールを書き送ると、こんな返メールが。「・・・銀座地区で買い物して歩いていますと、外国人がスマホ見て、目的地を難なく確認し楽しそうに歩いています。若い人たちはスマホという武器があるので、道の迷いはないようです」

笑っちゃったけどその通り。今はどこへ行っても、スマホ片手のインバウンドで一杯。今どき自国の中で迷ってるのは、私ぐらいでしょう。でも将来は、スマホのどこかを押すだけで、現在地が出てくるようになり、迷子はいなくなりますね。そんなことを考えていると、道に迷わなくなった世代を主人公とする S Fの最期のシーンが、ふと浮かびました。

 

 

「・・・ピカッと光った閃光を目の奥に感じてから、どれくらい時間がたっただろう。Qはけだるく目を開いたが、自分が今どこにいて、何があったのか思い出せなかった。だがスマホが無事である限り、現在地は分かるはず。内懐からスマホを取り出し、物陰から這い出して操作し、外光に晒してみた。そこには見慣れた繁華街の地図がくっきり見えている。ああ、あそこか・・・と安堵し、 Qは目を閉じた。

街は突然、一瞬で吹き飛んだのだが、それはスマホには写らない。Qは、帰りにどの店で一杯やるか夢想に耽りながら、束の間の眠りをまどろんだ。」


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コメント: 2
  • #1

    淺野聡 (水曜日, 07 5月 2025 12:43)

    もとより方向音痴の私は地図を見てもいまひとつ自分の位置がわからない場所があります。
    東京駅地下、渋谷、池袋、そして上野。。。上野では昨年スマホを片手に迷子になりました。

  • #2

    森真沙子 (金曜日, 23 5月 2025 13:21)

    お久しぶりです。
    今どき、迷子になったというと馬鹿にされますが、
    スマホ片手で迷子になる人もいると言うことに、励まされました!